大規模地震で鉄道などが止まったとき、会社が従業員を一斉に帰宅させると、道路の混雑や群集事故が起き、救命・救助や緊急輸送を妨げるおそれがあります。そのため、建物と周辺が安全なら従業員を施設内に待機させ、混乱が収まってから時間や経路を分けて帰宅させるのが基本です。
東京都内の事業者には、施設と設備、周辺の安全を確認したうえで一斉帰宅を抑えること、従業員用に3日分の飲料水・食料などを備えることが努力義務として定められています。ただし、危険な建物にとどまるという意味ではありません。火災、津波、倒壊などのおそれがあれば、命を守る避難を優先します。
| 状況 | 会社の基本対応 |
|---|---|
| 建物と周辺が安全 | 従業員・来訪者を施設内または安全な場所に待機させる |
| 建物または周辺が危険 | 一時滞在施設など別の安全な場所へ案内・誘導する |
| 混乱が収まり安全な移動手段・経路を確認 | 社内ルールに沿い、時間や経路を分けて帰宅させる |
そもそも一斉帰宅抑制とは?
一斉帰宅抑制とは、災害直後に多くの人が同時に移動することを避ける考え方です。内閣府の「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)は、「むやみに移動を開始しない」ことを基本原則とし、企業に施設内待機、備蓄、安否確認手段の確保などを求めています。
目的は従業員を会社に拘束することではなく、本人の安全を守り、緊急車両や応急活動の通行を確保することです。待機できる勤務先がある従業員は、原則として一般の一時滞在施設へ移るのではなく、まず自社の計画に沿って行動します。
対象となる事業者と人
東京都の東京都帰宅困難者対策条例では、都内の事業者が従業員の施設内待機と安全な帰宅の方針を事業所防災計画などに明らかにし、周知・点検・改善に努めることとされています。正規・非正規を問わず事業所内で勤務する全従業員を対象としたうえで、派遣・委託スタッフや来訪者の扱いも社内で決めておきます。
施設内待機の期間と3日分の備蓄
内閣府のガイドラインは備蓄量の目安を3日分とし、発災後72時間は特に人命救助に重要な期間と整理しています。東京都条例も従業員の3日分の飲料水、食料その他の必要物資を備蓄するよう努めると定めています。
- 飲料水と、そのまま食べられる食料
- 簡易トイレ、衛生用品、ごみ処理用品
- 照明、携帯ラジオ、予備電源、充電手段
- 毛布や保温用品、救急用品、常備薬への配慮
- 従業員名簿、安否確認手段、最新の連絡先
「必ず全員を丸3日間帰宅させてはいけない」という一律の期限ではありません。行政・交通・道路・火災などの情報から安全に帰宅できる状態を確認し、あらかじめ決めたルールで判断します。早く安全が確保できる場合もあれば、3日を超えて待機が必要になる場合もあります。
会社で準備する必要書類
行政へ提出する申請書ではなく、発災時に迷わず動くための社内文書が必要です。少なくとも次の内容を事業所防災計画やBCP、初動マニュアルに組み込みます。
- 建物・設備・周辺火災を確認する安全点検表
- 施設内待機を決める責任者と代行者
- 会社による従業員の安否確認手段と、従業員が家族の安否を確認するための複数手段
- 備蓄品の数量、保管場所、配布担当、更新期限の一覧
- 待機できない場合の避難先と誘導方法
- 帰宅開始の判断基準、優先順位、時間差・経路分散のルール
発災から分散帰宅までの手順
- 命を守る:揺れ、火災、津波などから身を守り、必要なら直ちに避難します。
- 安全を点検する:建物・設備の損傷、周辺火災、余震の危険を点検表で確認します。
- 待機先を決める:安全なら施設内、危険なら別の安全な場所へ移します。
- 安否と情報を確認する:会社は従業員の安否を確認し、従業員には家族との安否確認手段を案内します。あわせて行政情報、交通機関、道路の状況を複数手段で確認します。
- 備蓄を配る:人数と滞在見込みを把握し、水・食料・トイレ等を計画的に使用します。
- 分散して帰宅する:移動の安全を確認後、帰宅時間、経路、交通手段を分け、一斉移動を避けます。
注意点
施設内待機は、建物と周辺の安全確認が前提です。安全点検をせずに「3日間だから残る」と判断してはいけません。また、一時滞在施設は、勤務先など安全に待機できる場所がない人を主な対象とします。自社の従業員分を一時滞在施設任せにせず、自社で待機場所と備蓄を準備します。
帰宅可能になっても、全員を同時に出発させると新たな混雑を生みます。内閣府ガイドラインは、時間または空間を分ける「分散帰宅」を基本としています。介護や子どもの迎えなど個別事情の扱いも、本人任せにせず平時に方針を決めておきます。
次に確認すること
- 出勤者・来訪者を含む最大待機人数を把握できているか
- 建物安全点検表を実際の事業所で使える形にしているか
- 3日分の水・食料・簡易トイレの数量と期限が合っているか
- 電話がつながらない場合を含む安否確認手段が複数あるか
- 待機、避難、帰宅開始を決める責任者と代行者が明確か
- 年1回以上、実動訓練または図上訓練で手順を見直しているか
一次資料と情報確認日
情報確認日:2026年8月14日。実際の災害時は、行政機関、消防、警察、交通事業者などが発信する最新情報を確認してください。

