企業が渇水や水不足への備えを見直すときは、発生中の断水戸数ではなく、平時の拠点情報と水への依存度を整理するところから始めます。2026年7月、「気候変動による水資源リスクの評価研究会」は「気候変動を踏まえた水資源リスク評価の手引き」を取りまとめました。国土交通省が掲載する完成版の手引きで、版は1.0、初版発行日は2026年7月10日です。速報や進行中の被害情報ではなく、企業が拠点別の水資源リスクを評価する際に参照できる固定資料です。
完成済みの手引きだが、一律の法的義務ではない
国土交通省の掲載ページによると、この手引きは、水資源リスクの評価・開示に取り組む企業の財務情報開示担当者等を対象に、評価の具体的な手順や考え方を解説するものです。国土交通省は研究会に構成員として参加し、取りまとめに協力しています。
一方、手引きそのものは、すべての企業へ新たな一律義務を課す法令や告示ではありません。自社の事業特性に応じて、水への依存、渇水時の操業影響、代替手段を平時に確認するための参考資料として使います。記事でも「国が義務化した」と読み替えず、対象や位置づけを分けて扱うことが重要です。
水資源リスクを棚卸しする3段階
手引きは、水資源リスクの管理を三つの段階に整理しています。全拠点をいきなり精密調査するのではなく、まず広く比較し、重要な拠点を絞ってから詳しく調べ、対策へつなげる流れです。
| 段階 | 企業が行うこと | 実務上の成果物 |
|---|---|---|
| 1 スクリーニング | 全拠点の外部環境と、水の使用量・用途・依存度などを整理して相対比較する | 優先して確認する拠点の一覧 |
| 2 詳細評価 | 高リスクと判断した拠点について、地域の水事情や自社設備、供給制約の影響を詳しく確認する | リスクの原因と操業影響の整理 |
| 3 対応・監視 | リスク低減策や適応策を決め、実施状況と条件の変化を継続して確認する | 担当者、対策、見直し条件を含む管理表 |
この順序なら、専門的な分析が必要な拠点を絞りやすくなります。詳細評価は社内だけで完結させる前提ではなく、必要に応じて専門機関等と連携する発展的な段階として示されています。
最初に集める拠点情報を共通化する
最初の棚卸しでは、拠点ごとに同じ項目をそろえないと比較できません。総務、設備、製造、調達、BCPの担当者が持つ情報を一つの表へまとめます。
- 拠点名、所在地、事業・工程の内容
- 水源の種類、年間の取水量・使用量、主な用途
- 水が止まった場合に継続できない業務と、停止までの時間
- 代替水源、貯水設備、節水運転、他拠点での代替可否
- 過去の渇水・取水制限・操業影響と、そのときに取った対応
- 水に依存する主要な仕入先や委託先
地図上の水ストレスが高いという情報だけで結論を出さず、拠点固有の水源、設備、用途、代替可能性を組み合わせて判断します。反対に、過去に問題がなかったことだけで将来も安全と決めず、拠点情報の更新日と前提を残します。
BCPでは「評価結果をどう使うか」まで決める
棚卸しの結果は、評価資料を作って終わりではありません。高リスク拠点について、節水運転へ切り替える条件、代替生産や在庫積み増しを検討する条件、自治体・水道事業者の情報を確認する担当者、経営判断へ上げる基準をBCPへつなげます。
この手引きは、水道事業者による給水制限、自治体の要請、施設固有の設備点検を置き換えるものではありません。また、評価ツールには地域の水利や個別設備を十分に反映できない場合があります。全拠点の比較、重要拠点の深掘り、対策と監視という順序を、自社の規模と事業内容に合わせて使うことが、陳腐化しにくい平時の備えになります。
情報確認日:2026年8月21日(JST)。出典:国土交通省「気候変動を踏まえた水資源リスク評価の手引き」掲載ページ、「気候変動を踏まえた水資源リスク評価の手引き」版1.0(2026年7月10日初版発行)。

